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歯の型取りで「歯茎に糸を入れる」理由とは?歯肉圧排の目的

「歯の型取りをする時に、歯茎の間に細い糸を入れられた。少しチクチクしたけれど、あれは何の意味があるの?」

歯科医院で被せ物(クラウン)の治療を受けた際、このような経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。

実は、この「歯茎に糸を入れる」という工程は、専門用語で「歯肉圧排(しにくあっぱい)」と呼ばれます。

一見地味で、患者様にとっても少し違和感のあるこの処置。しかし、この「ひと手間」をかけるかどうかが、その被せ物が「10年後もトラブルなく使い続けられるか」それとも「数年で二次カリエス(むし歯の再発)になってしまうか」の運命を分けると言っても過言ではありません。

今回は、当院が精密な歯科治療において、なぜ「歯肉圧排」を欠かさずに行うのか、その驚きの重要性について詳しく解説します。

歯と被せ物の境界線を明確にするための処置

歯科治療のゴールは、単に穴を埋めることではありません。本来の歯と同じように機能し、見た目も美しく、そして何より「長持ちすること」が重要です。

被せ物を作る際、最も重要なのが「歯と被せ物の境界線」です。この境界線が歯茎のキワや、少し内側に入り込んでいる場合、そのまま型取りをしようとしても、歯茎が邪魔をして境界線がはっきりと写りません。

そこで登場するのが「圧排糸(あっぱいし)」という専用の細い糸です。この糸を歯と歯茎のわずかな隙間(歯肉溝)に丁寧に挿入することで、物理的に歯茎を押し広げ、隠れていた境界線を露出させます。

歯肉圧排(しにくあっぱい)を行う3つの目的

「たかが糸一本」と思われるかもしれませんが、この工程には歯科医師の並々ならぬこだわりが詰まっています。

歯肉圧排を行う目的は、主に以下の3点です。

1.境界線の露出: 被せ物の端っこ(マージン)がどこなのかを明確にする。

2.止血と乾燥: 歯茎からの出血や浸出液を抑え、型取りの精度を落とす水分を遮断する。

3.スペースの確保: 型取りの材料(印象材)が、境界線の奥まで流れ込むための隙間を作る。

これらが行われないまま型取りをすると、完成した被せ物は「なんとなく形は合っているけれど、ミクロン単位で見ると隙間がある」という状態になってしまいます。

 

圧排処置が被せ物の精度を左右する理由

歯茎の境界線(マージン)を1ミリの狂いなく露出させる

精密な被せ物を作るためには、歯科技工士が石膏模型を見たときに「ここが被せ物の終わりのラインだ」と一目で分かる必要があります。

もし圧排をせずに型取りを行うと、歯茎が境界線に被さってしまい、模型上ではラインが「ぼやけて」見えます。境界線が不明瞭な模型から作られた被せ物は、どうしても適合が悪くなります。

歯型を採る「印象材」が細部まで流れ込むためのスペース作り

当院で使用する精密な型取り材は、非常に細かい部分まで再現できる能力を持っています。しかし、その材料が入り込む「道」がなければ意味がありません。

糸を入れて歯茎をわずかに広げておくことで、その隙間に型取り材がスーッと流れ込みます。これにより、歯の形だけでなく、歯茎との位置関係まで精密にコピーすることができるのです。

【比較】圧排を「する医院」と「しない医院」で仕上がりにこれだけの差が出る

実は、この「歯肉圧排」は、すべての歯科医院で必ず行われているわけではありません。保険診療の範囲内や、スピードを重視する診療では省略されることも多い工程です。

・圧排をしない場合: 被せ物の縁が歯茎に対して「浮いている」または「オーバー(はみ出している)」になりやすい。その隙間にプラークが溜まり、数年で被せ物の中でむし歯が再発するリスクが高まります。

・圧排をする場合(当院の基準): 境界線がピタッと一致するため、段差がほとんどありません。フロスが引っかかることもなく、汚れが溜まりにくいため、歯茎の健康も維持しやすくなります。

 

圧排を行わない場合のリスクと適合性の追求

二次カリエス(むし歯の再発)を防ぐための「適合性」への追求

当院が目指しているのは、**「一度治療した歯が10年、それ以上取れない・悪くならないこと」**です。

被せ物が脱落したり、中でむし歯になったりする最大の原因は、境界線の「適合不良」です。圧排糸を使用して採った精密な型をもとに作られたクラウンは、まるで自分の歯の一部になったかのようにフィットします。この高い適合性こそが、長期にわたって歯を守るための最大の防御壁となるのです。

歯肉のラインを美しく再現し、見た目も自然な仕上がりに

特に前歯の治療において、歯茎との境目は見た目の美しさに直結します。糸を使って歯茎の形を正確に把握することで、被せ物が歯茎から自然に生えているような、審美性の高い仕上がりを実現できます。

技工士が「最高の仕事」をできる模型を提供するために

被せ物を作るのは、提携しているプロの歯科技工士です。技工士に渡す「型」が不鮮明であれば、どんなに腕の良い技工士でも最高の被せ物を作ることはできません。 「ドクターから届く模型が鮮明であればあるほど、技工士も限界まで精度を追求できる」 当院では、技工士が迷いなく作業できる「最高のバトン(模型)」を渡すために、圧排の工程を極めて重要視しています。

 

ダイレクトボンディング(即日充填)における圧排糸の隠れた役割

「糸」を使うのは、被せ物の時だけではありません。当院では、白く審美的な詰め物を行う「ダイレクトボンディング」の際にも、必要に応じて圧排糸を使用します。

段差のない滑らかな仕上がりへ

ダイレクトボンディングは、本来、歯茎よりも上の部分(縁上)の治療に適した方法です。しかし、むし歯が少し歯茎の下まで進行してしまっているケースもあります。

通常なら「削って被せ物にするしかない」という場面でも、糸を入れて歯茎をグッと押し下げることで、歯茎の下に隠れていたむし歯の部分を露出させ、ダイレクトボンディングで対応できる場合があります。

接着を妨げる水分や血液のコントロール

ダイレクトボンディングにおいて最も大切なのは「接着」です。歯と材料を強力にくっつけるためには、水分や血液が一切ない、乾燥した状態を作らなければなりません。

歯茎のキワを治療する際、少しでも出血があると接着力は激減し、すぐに外れたり、境目から変色したりしてしまいます。当院では止血剤と圧排糸を併用することで、術野を完全にクリーンに保ち、高品質な充填を行います。

歯肉を押し下げることで、段差のない滑らかな詰め物を実現する

糸で歯茎をよけておくことで、詰め物の仕上げを歯茎のギリギリまで滑らかに研磨することができます。この「滑らかさ」が、治療後の歯肉炎を防ぎ、清潔な状態を保つポイントです。

 

歯肉圧排に伴う「痛み」や「リスク」について

「歯茎に糸を入れるなんて、痛くないんですか?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。

麻酔の併用による痛みの軽減

当院では、圧排を行う際は基本的に適切な麻酔を行います。そのため、糸を入れる時に痛みを感じることはほとんどありません。眠っている間に終わってしまうような、静かな処置ですのでご安心ください。

術後の一時的な違和感について

一時的に歯茎を押し広げるため、治療後に歯茎が少しムズムズしたり、数日間赤みが出たりすることがありますが、通常は数日で自然に治まります。

自由診療(自費治療)でこそ、この「ひと手間」が最大の価値を生む

この「歯肉圧排」という工程には、実は多くの時間がかかります。糸を丁寧に一周巻き、止血を確認し、形が整うのを待つ……。

当院では、自費診療のクラウンやダイレクトボンディングの費用の中に、この圧排にかかる工程もすべて含めています。別途費用をいただくことはありません。なぜなら、**「10年持たせるための精度」を追求するなら、圧排はオプションではなく「必須の工程」**だと考えているからです。

 

まとめ:一生モノの歯を守るために、当院は「見えない努力」を惜しみません

「早く終わる治療」が、必ずしも「良い治療」とは限りません。

当院が型取りの前に、あえて時間をかけて「糸」を巻くのは、あなたが数年後に「また同じところが悪くなった」と悲しむ顔を見たくないからです。10年、20年と、その被せ物で美味しく食事をしていただくための、私たちなりの「誠実さ」の形が、この一本の糸に込められています。

「精度にこだわった治療を受けたい」「もう治療を繰り返したくない」 そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。あなたの歯を守るための「見えない努力」を、全力で行わせていただきます。

 

この記事の監修者

都筑マイクロスコープ歯科 院長

UCHIDA YOSHITAKA

「歯の神経を抜くこと」は、患者様のその後の人生を左右する大きな決断です。

だからこそ、私は安易に抜髄や抜歯を選択せず、マイクロスコープを用いた精密治療で「一本でも多くの歯を救う」ことに全力を注いでいます。

かつて治療で怖い思いをした方や、諦めかけている方も、ぜひ一度ご相談ください。友人や家族に対するように、あなたの歯の未来を一緒に考え、守っていくことをお約束します。

【プロフィール】

神奈川歯科大学卒業。日本歯内療法学会、日本顕微鏡歯科学会所属。

「石井歯内療法セミナー」や「顕微鏡治療ハンズオンコース」など、高度な技術研鑽を積み、再発の少ない精密根管治療を提供している。

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