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ドクターブログ
【症例】大きな虫歯でも神経を残す「歯髄温存療法(MTAセメント処置)」〜マイクロスコープとラバーダムを用いた精密治療〜
1. 症例概要と来院時の症状
・患者様: 40代 男性
・主訴: 奥歯の虫歯治療、冷たいものが時折しみる
・診断: 深在性齲蝕(神経に達する深い虫歯)
・治療方針: ラバーダム防湿およびマイクロスコープ下での歯髄温存療法(VPT)、ダイレクトボンディングによる最終修復
・治療期間・回数: 2回
・費用(自由診療):
・虫歯除去処置(マイクロスコープ・ラバーダム使用):33,000円(税込)
・歯髄温存療法(MTAセメント処置):66,000円(税込)
・※ダイレクトボンディング費用別途
2. 治療に至る経緯と当院の診療方針
患者様は奥歯の虫歯治療を希望して来院されました。レントゲン検査を行ったところ、虫歯が歯の深部まで進行しており、通常であれば「神経を抜く処置(抜髄)」が選択される可能性が高い状態でした。
歯の神経(歯髄)を抜いてしまうと、歯に栄養が行き渡らなくなり、将来的に歯が脆くなって破折したり、再感染を起こして抜歯に至るリスクが飛躍的に高まります。当院では「可能な限りご自身の歯の組織と神経を残し、歯の寿命を延ばす」ことを最優先の治療方針としています。
患者様とご相談の上、マイクロスコープ(手術用顕微鏡)とラバーダム防湿を必須とした「歯髄温存療法」を行うこととなりました。
3. 症例写真で見る実際の治療プロセス
【ステップ1】無菌環境の確保と精密な虫歯除去
まず、治療中に唾液や細菌が歯の中に侵入するのを防ぐため、ゴム製のシートである「ラバーダム防湿」を装着します。歯髄温存療法において、唾液の侵入は治療失敗の最大の原因となるため、ラバーダム防湿は絶対条件となります。
次に、マイクロスコープを用いて視野を数十倍に拡大しながら、感染している虫歯組織だけをスプーンエキスカベータや専用バーで慎重に取り除いていきました。
【ステップ2】露髄の確認と神経の生存・健康度判定(写真①)

虫歯をすべて除去した段階で、神経の部屋(歯髄腔)に通じる小さな穴(露髄)が確認されました(写真①の中央に見える赤い点状の部分)。
当院では、神経が残せるかどうか(正常な神経か)を以下の厳格な基準で判断しています。
・鮮血の確認: 神経から綺麗な赤い出血(bleeding)があるか確認します(死んでいる神経や重度の炎症を起こしている場合は出血がないか、黒ずんだ血が出ます)。
・5分間の圧迫止血: 薬剤を浸した綿球で露髄面を5分ほど圧迫し、止血するかどうかを確認します。
本症例では、鮮明な出血が確認され、5分間の圧迫止血によって確実に血が止まりました。これにより「神経の炎症は局所にとどまっており、生きている(温存可能である)」と確定診断を下しました。
【ステップ3】MTAセメントによる封鎖・仮封(写真②)

止血と露髄面の消毒が完了した後、露出した神経の上に「MTAセメント」を慎重に積層しました(写真②の白い部分)。
MTAセメントは、強力な殺菌作用(強アルカリ性)と高い密閉性を持ち、さらに神経周囲の象牙質再生を促進する非常に優れた材料です。MTAセメントの硬化を確認後、二次感染を防ぐために緊密な仮詰め(仮封)を行い、一度経過を観察しました。
【ステップ4】経過観察とダイレクトボンディングによる最終修復
仮詰め後、一定期間の経過観察を行いましたが、自覚症状(痛みやしみ)もなく、神経が正常に機能していることが確認されました。
最終的な修復処置として、当院では削った部分にコンポジットレジンを直接盛り付けて修復する「ダイレクトボンディング(直接樹脂修復)」を実施いたしました。型取りを必要とせず、自身の歯を削る量を最小限に抑えながら、歯の本来の形態と審美性を即日で復元して治療完了となりました。
4. 歯髄温存療法を成功させるための必須条件
歯髄温存療法は、どの歯科医院でも同じ結果が得られる治療ではありません。当院が本治療を行うにあたり、必ず徹底しているポイントは以下の3点です。
・ラバーダム防湿の徹底: お口の中の唾液1滴には数億個の細菌が存在します。唾液が神経に触れた瞬間、再感染のリスクが跳ね上がるため、ラバーダム防湿なしでの歯髄温存療法は行いません。
・マイクロスコープによる超拡大視野: 肉眼や拡大鏡では見えない微細な虫歯の取り残しや、神経の細かな状態を正確に観察するためにマイクロスコープの使用は不可欠です。
・正確な判定基準(5分間止血法): 神経を無理に残しても、中で感染が残っていれば後から激痛が生じます。「出血の状態」と「5分間での確実な止血」という客観的な基準で、残せる神経と残せない神経を厳密に選別しています。
5. 担当医からのメッセージ
「他院で神経を抜かなければいけないと言われた」「できる限り自分の歯を削らず、神経を残したい」とお悩みの方は非常に多くいらっしゃいます。
一度抜いてしまった神経は二度と戻りません。しかし、マイクロスコープとラバーダム、MTAセメントを用いた精密な治療を行えば、これまで諦められていた多くの神経を守ることが可能です。
当院では、患者様の大切な歯の寿命を1日でも長く引き延ばすため、妥協のない精密診療を提供しております。大きな虫歯でお悩みの方は、神経を抜いてしまう前にぜひ一度当院までご相談ください。
